「……………ここ、は」
ぼんやりと、乙女はつぶやいた。
よくよく見知った場所のような気もするが、どこであるのかまったく思い出せない。
「……おはか、だ」
そこはさみしい場所だった。丸く土を盛っただけの、小さな墓が一列にならんでいる。
墓標の代わりに植えられた、ヘンルーダの花はすべて折れ枯れはてていた。
もう、身代わりになってくれる乙女はいない。
のこっているのは、自分自身の命、ただひとつだ。
乙女は一番さいしょの墓にひざまづき、祈った。
この墓のしたには何もない。
ただ、最初の王妃の形見がひとつ、埋められているだけ。
王妃は不貞の罪で死をたまわり、墓所に眠ることをゆるされなかった。
うらぎられた王は女を憎み、うらぎりを仕組んだ世のすべてを恨んで、愛や情けを捨てさった。
けれども。
――あいしてる。
うらぎってなどいない。いまも、むかしも。
たったひとつの言葉を伝えるために、幾晩をついやしただろう。
きっとこれが、さいごの夜になる。
乙女は祈った。
どうか、あのひとを、あのひとが夢みたこの都を
わざわいから、解き放てますよう
ひとふりの短剣が、王妃の墓からあらわれる。
そして、『都の解放者』は立ちあがった。