最終夜





「……………ここ、は」
 ぼんやりと、乙女はつぶやいた。
 よくよく見知った場所のような気もするが、どこであるのかまったく思い出せない。
「……おはか、だ」
 そこはさみしい場所だった。丸く土を盛っただけの、小さな墓が一列にならんでいる。
 墓標の代わりに植えられた、ヘンルーダの花はすべて折れ枯れはてていた。
 もう、身代わりになってくれる乙女はいない。
 のこっているのは、自分自身の命、ただひとつだ。
 乙女は一番さいしょの墓にひざまづき、祈った。
 この墓のしたには何もない。
 ただ、最初の王妃の形見がひとつ、埋められているだけ。
 王妃は不貞の罪で死をたまわり、墓所に眠ることをゆるされなかった。
 うらぎられた王は女を憎み、うらぎりを仕組んだ世のすべてを恨んで、愛や情けを捨てさった。
 けれども。
――あいしてる。
 うらぎってなどいない。いまも、むかしも。
 たったひとつの言葉を伝えるために、幾晩をついやしただろう。
 きっとこれが、さいごの夜になる。
 乙女は祈った。 

 どうか、あのひとを、あのひとが夢みたこの都を
 わざわいから、解き放てますよう


 ひとふりの短剣が、王妃の墓からあらわれる。

 そして、『都の解放者』は立ちあがった。











□ END □

夜の間は女になる魔術師の魔法と、王妃や乙女の身代わりの魔法。
実は、身代わりの魔法には不備があって、そこのところの整合性をどうしようか悩んでるうちに時間切れしました。
それで、こんなネタだけ並べた本に……基本、書いたら書きっぱなしなんで再掲載でもこのままです。すみません……